《おおすみ雑記 》
「食の主権」を取り戻す小規模家族農家と学校給食
先日、ちょっと訪ねたところで農業の話になり、これから先、農家はやっていけない…という声を聞いた。それは、農家はこれまでもこれからも、食っていけないからだという。後継者の問題もあるが、食っていけないから後継者が育たたないということ。
飼料等も高騰し、農業は補助金等で繋いでいるという形だが、それは裏返して言えば、農業の構造的なものに欠陥があるということだと思う。農業そのものもだが、その流通に関しても。そして米国がトランプ大統領になり、余計その傾向が強くなるという。
これはこの前書いたように、食の自給率にも大きく関わってくる。
自給率がカロリーベースで38%と言われるなかで、日本は飽食と言われている。
一方で国連が公表している世界の飢餓マップ。
アフリカや戦争や異常気象の起こっている国や地域など、ほぼリアルタイムで世界90カ国以上の食料不安の状況が示されている。
そうした中でブラジルでも危機的状態にあったが、「貧困と飢餓撲滅キャンペーン」を成功させ、その国連飢餓マップから卒業したという。
その成功の鍵は、政策の柱に置かれた「小規模家族農家」と「学校給食」らしい。
ブラジルでは食料の7割が家族農家によって生産されている。
それは、子どもたちには安心安全な食と、自国の食文化を敬う心とを与えたい。そのためには、食材を作ってくれる農民たちを、かけがえのない大切な存在として国が守るべき、2つの政策は「人権」という同じコインの表と裏なのだから…という考え方から。
単なる法改正でなく、食の主権を軸にブラジルという国が進化するための、強力な社会運動を起こし、2009年に全ての学校給食での100%地元食材利用と、地方自治体が国からの予算の3割を、家族農家からの食材購入費に充てることを義務化する「学校給食法」を導入。
農地改革の直後で販売経路も持たず、生活苦からやむなく廃業し、都市部に出稼ぎに出て低賃金の日雇い仕事についていた農民たちは、学校が買い上げてくれる保証ができたことで安心し、次々に故郷の農村に戻ってきたという。
「販売経路も持たず、生活苦からやむなく廃業し、都市部に出稼ぎに出て低賃金の日雇い仕事についていた農民たち」という構図は、戦後の日本農業に投影され、それが今でも続いていて、冒頭のような声になっている。
日本は、そこからほぼ構造的なことに手をつけるどころか、大規模農業化して輸出奨励するという。そこに自給率や食べる側の視点が欠落している。
給食に有機食材を入れる条例、有機農地は12倍に拡大
ブラジルでは、国内に5500ある自治体の半数以上で、教育長と地方政府、自治体議員に、保護者の代表などを集めた学校給食委員会が立ち上がり、食材の仕入れ内容から流通ルート、給食メニューに至るまで、さまざまな立場の地域住民が当事者として参加。
政府は各自治体の取り組みをチェックし、年に1回、その年最も素晴らしい給食を実践した自治体を、30候補の中から選んで表彰、良い意味で競争意識が働き、各地が自慢の地元産食材を使って創意工夫するようになっている。
サンパウロ市では2013年から給食に有機食材を入れる条例が成立、それによる30%のコスト上昇分は市が負担。2006年から2017年の問に有機農地は12倍に拡大、その中心になっているのは、かつては貧しかった農民たちの団体だという。
今、意識ある国々は、その潮流として有機給食を取り入れ「食の主権」を取り戻しつつある。
子どもたちに最高の給食を届けたい~まず一歩を踏み出そう~
日本でも、2022年10月に第1回全国オーガニック給食フォーラムが東京都中野で開催され、全国サテライト会場61ケ所とオンライン含め約4万人、国会議員、自治体職員、文科省、農水省農協関係者も参加した。
そしてちょうどこの2024年11月8・9日、もっと広がれ!オーガニック給食として「第2回全国オーガニック給食フォーラム」が開催され、鹿屋でもサテライトフォーラムとしてオンラインで視聴があった。
「もっと広がれオーガニック給食!~JAも一緒に給食を変えよう~」
「子どもたちに最高の給食を届けたい~まず一歩を踏み出そう~」
「JAもやればできる有機農業、まずは学校給食から」
「給食が拓く子どもたちの未来~行政、協同組合の役割」
「いのちの給食が世界を変える~私たち大人が手渡せるもの」
などメッセージが伝えられ、オーガニック給食を実現したJAからの報告として5つのJAからの声を聴いた。
今、私たちの周りでも、有機農家が増えてきている。
ブラジルは、その危機的状態から脱皮できて「食の主権」を取り戻したという。
日本の「食の主権」はどうなる? それは私たち地域の中でも考えていくことだと思う。(米永20241110)