2024年03月17日 09時15分

《雑草 》

薩摩に入府した関東の澁谷一族は…

 鹿屋市串良町細山田池栗須の串良川東側に、渋谷食品と言う芋けんび〈からいも、かりんと〉等を作る工場がある。

 最初の頃はさほど大きな工場ではかったが時を経て、今は大きな工場が幾棟も立っている渋谷食品という、会社名が何故か私の心が騒ぎ穏やかでない。

 今はいちき串木野市になっているが、かっては入来を通って出水や阿久根に行く際に、鄙びた武家屋敷を通り過ごしていた。

 余り気に掛けていなかったが、関東の相模地方周辺に勢力を誇っていた渋谷一族が、鎌倉幕府の命によって薩摩の市来の地周辺の領地を与えられ、相模の領地以外に渋谷一族の勲功に対して遠く離れた薩摩の地に、忠実に任務を果たす家臣に領地を与えられた。

 嫡男は渋谷本領を与え鎌倉幕府の盤石の為に家臣団と共に守り、薩摩の地には嫡子以外の次男以下5人の男子に、其々に領地を与え本家渋谷を名乗らず新たに入府した地に、氏名籍を起こせとの厳命であった。

平安末期から鎌倉時代への変遷期

 時代は目まぐるしく変遷する世で、薩摩で渋谷一族を名乗り強敵と戦う事に成れば、遠く離れた薩摩の地に加勢は出来ない。

 その為にもその土地の豪族と渋谷氏一族は結束して、何としても盤石な薩摩に渋谷一族の領地を確保する事であった。
 相模・渋谷の名誉は不退転の決意で守らなければならない、下命を背負って5人の男子を入府させたのであろう。

 渋谷氏は関東より遠く離れた薩摩の地で、盤石にする狙いがあったのだろう。島津氏は代官を置き関東におり薩摩領に一抹の不安はあった。
 島津忠久は源頼朝が(名門で無い)側室に産ませた子であり、何時暗殺されるか分からない不穏な時世であった。

 薩摩に入府する渋谷氏には入来院と祁答院棟を含む領地を下賜され、長男の重直に相模の国の渋谷領を与えられた。
 次男から6男迄を薩摩の地に渋谷氏の確固たる地盤を確保したかったのだろう。
 此処に島津忠久自身が乗り込んでくる平安時代の末期から鎌倉時代への時代の変遷期であり、全国各地が不安定であった。

薩摩渋谷氏の始まり

 薩摩渋谷氏の始まりはその土地の入来院を名乗り,祁答院氏、東郷氏、鶴田氏、高城氏等と各地の有力な豪族と、誼を図り渋谷一族を固めたと言われる。

 その時代は太宰府から任官された宮廷官僚と、鎌倉幕府から入府を命じられた荘園主と、各地の豪族も入り乱れ力の持った豪族と、大伴家持の子孫の脈絡を持つ大隅の肝付一族が勢力を張っており、どの勢力に付くかが我が身の安泰に繋がるか、混沌とした時代の変遷期であった。

 話しを戻そう、入来院を名乗りやがて南朝・北朝の権力後継闘争が勃発し、薩摩の渋谷氏は当初南朝方に付いて、肝付勢と共に島津の北朝方と熾烈な戦いを繰り広げた。

 当時宮方の肝付兼重は勢力を増しており肝付勢を敵に回すは不利とみたのか定かでないが、南北朝の権力争いは和睦が成立し、此処に島津と薩摩渋谷氏(以後は入来院と記す)は共に武家(源頼朝)一族同士で島津氏と協調し家臣となる、様々な苦境を超えて島津氏と共に藩政時代を迎えるのである。

清色城跡として現在は桜の名所に

 又鹿児島の地で渋谷氏の名字が少ない事も気掛かりだった訳が分かり、島津氏を支えたのも市来氏、東郷氏、鶴田氏、祁答院氏となり強力な勢力になる。

 入来の武家屋敷も見聞して城跡も訪問したが、清色城跡として現在は桜の名所となり公園になっている。石造りの橋に幅広い階段が5~60段あり大手門であった。
 渋谷光重の5男を祖として築城は推定で永和年間(1375~79)にされており、現在は隣接して小学校になって戦火を一度も交えてない、一族が結束して守った城址を伺わせる優美な佇まいである。

 鹿屋市串良町の池栗須橋を渡って渋谷食品を目にする時、いつも気掛かりになっていた、渋谷一族が忽然と消えた由来も理解できた。私は高速道路を通るよりその地域が持つ歴史を見るのも、楽しみのひとつである。

 肝付氏の名を大隅に留める為に本家の懇願を断り、兼続は離縁望むが於南の方は嫁した以上は肝付一家の人となり、本拠地の菩提の盛光寺に眠る。

 肝付兼続は一族と離れて志布志に眠るは彼の宮家としてのプライドであったか、島津家と肝付家の確執は身分の相違で如何ともし難いものがあったのだろう。

 何時かは渋谷氏の事を記そうと思っていたが、機会がありつい長くなってしまった。私は入来院の一門の屋敷を訪ねたかった、現在残るは清色城址が面影を残している。
 これで長年の蟠りを渋谷食品の工場施設を見て機会が叶った。

 益々渋谷食品の本社は四国の高松にあり、歴史上の渋谷一族の関連性よりもプロセスが心に残る。創業者は鹿児島とは縁は切れないものがあるのだろう。益々の発展を祈念したい。(岩重20240316)

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